【vol.3 鉄分】「なんとなく元気がない子」の正体
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朝、なかなか起きてこない。学校から帰ってくると、ぐったらして横になる。「疲れた」「眠い」が口癖になっている。顔色がなんとなく冴えない気がする。
そんな様子のお子さまを見ていて「成長期だから、こんなものかな」「最近、塾で疲れているのかな」と思いつつ、なんとなく釈然としない違和感を抱えている保護者の方は、決して少なくないはずです。
お子さんのその疲労感、もしかしたら「鉄分」の不足が原因かもしれません。今回は、子どもの活力・集中力・情緒安定に深く関わる栄養素、鉄分のお話です。
【保護者の方からのご相談】
「小学5年生の娘が、ここ半年ほど『疲れた』が口癖になってしまって…。学校の体力測定でも明らかに落ちていて、なんとなく顔色も白っぽい気がしていました。受診したら『軽度の貧血』と。気づかなかった自分を責めてしまいました。」
(千葉県・40代女性/小学5年生の保護者)
特に成長期の女の子の場合、月経が始まる前後の時期から、鉄分不足のリスクが大きく高まります。「疲れやすい」が、思春期特有のものなのか、栄養面の問題なのか、見分けるのは保護者にとっても難しい問題です。
【このお悩みは、一児の母でもある管理栄養士の宮﨑先生と一緒に考えます】
自身も子育てに奮闘中のママであり、食のプロフェッショナルでもある宮﨑先生。お母さんたちのリアルな不安に寄り添いながら、今日からできるアドバイスをお届けします。
宮﨑 奈津季(管理栄養士/一児の母)
大学を卒業後、医療系食品メーカーで2年間営業に従事。その後独立し、記事執筆やレシピ開発、商品企画に携わる。会社立ち上げも経験。
現在はプロジェクトマネージャーとして、食や健康に関するコンテンツ制作や企画、ディレクションを担当している。その他、Webメディア編集や特定保健指導、講師業などをフリーランスとして幅広く活動中。
1. 鉄分とは何か
鉄分は、体の中でいくつもの重要な役割を担っているミネラルです。中でも最も重要なのが、酸素を体じゅうに運ぶ「血液の主役」としての役割です。
血液の中の赤血球には、ヘモグロビンというたんぱく質があり、これが酸素を肺から全身の細胞へと運んでいます。このヘモグロビンの中心にあるのが、鉄分です。鉄分が足りなくなると、ヘモグロビンが十分に作れなくなり、結果として体の細胞ひとつひとつに、十分な酸素が届かなくなってしまいます。
体じゅうの細胞は、酸素を使ってエネルギーを作り出しています。鉄分不足によって酸素が届かなくなった細胞は、エネルギーをうまく作れなくなり、それが「なんとなく元気がない」「すぐ疲れる」「集中が続かない」という形で表に現れてくるのです。
鉄分はまた、脳の発達や、神経伝達物質(ドーパミン・セロトニンなど)の合成にも関わっており、子どもの集中力・情緒の安定にも深く関係している栄養素として知られています。
2. 子どもが鉄分不足になると、どうなるのか
鉄分不足は、はっきりとした「貧血」になる前から、子どもの体と心にじわじわと影響を及ぼします。
疲れやすさ・体力低下
酸素が細胞に届きにくくなることで、ちょっとした運動でも息切れがしたり、すぐに疲れたりするようになります。「うちの子、最近すぐ疲れたって言うな」というのは、鉄分不足のサインかもしれません。
集中力・学力への影響
脳は、とりわけ多くの酸素を消費する臓器です。鉄分不足によって脳への酸素供給が落ちると、集中力が続かない、授業中ぼーっとしている、覚えた内容が定着しにくい、といった形で学習面に影響が出ることがあります。海外の研究では、鉄欠乏性貧血の子どもは、学力テストのスコアが有意に低いという関連が報告されています。
情緒の不安定・イライラ
鉄分は、脳内で感情を整える神経伝達物質の合成にも関わっています。鉄分不足が続くと、イライラしやすくなる、些細なことで泣く、気分の浮き沈みが激しくなる、といった情緒面の不調として現れることがあります。
顔色不良・髪のパサつき
血液中のヘモグロビンが減ると、顔色が青白く見えるようになります。また、髪や爪のツヤがなくなり、パサつきや割れやすさが目立つようになることもあります。
食欲不振
鉄分不足は食欲を低下させることがあります。「食べないから鉄分が足りない」が、「鉄分が足りないから食べない」という悪循環を生むケースは、実は珍しくありません。
3. 1日にどれくらい必要?──思春期女子は大人並みに
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、子どもの年齢別に1日の鉄の推奨量を以下のように定めています。
【日本人の1日あたり「鉄」推奨量(2025年版)】
| 年齢 | 男性(mg/日) | 女性(mg/日)※月経なし/月経あり |
|---|---|---|
| 1〜2歳 | 4.0 | 4.0 |
| 3〜5歳 | 5.0 | 5.0 |
| 6〜7歳 | 6.0 | 6.0 |
| 8〜9歳 | 7.5 | 8.0 |
| 10〜11歳 | 9.5 | 9.0 / 12.5 |
| 12〜14歳 | 9.0 | 8.0 / 12.5 |
| 15〜17歳 | 9.0 | 6.5 / 11.0 |
| 18〜29歳(成人) | 7.0 | 6.0 / 10.0 |
| 30〜49歳(成人) | 7.5 | 6.0 / 10.5 |
注目していただきたいのは、12〜14歳の男子で1日9.0mg、12〜14歳の女子(月経あり)で1日12.5mgという、それぞれ成人男性(7.0~7.5mg)・成人女性(10.0~10.5mg)を上回る推奨量が示されている点です。
「思春期の子どもは、大人よりたくさんの鉄を必要としている」──この事実は、保護者の方にぜひ知っておいていただきたいポイントです。第二次成長期で体が大きくなる時期と、女子の場合は月経による鉄の損失が重なる思春期は、人生の中で最も鉄が必要な時期と言えます。
4. 鉄分はどんな食品に入っているのか
鉄分を多く含む食品には、以下のようなものがあります。
【動物性食品(ヘム鉄)】
- レバー(豚レバー、鶏レバー)
- 赤身の肉(牛もも肉、馬肉)
- 赤身の魚(かつお、まぐろ、いわし、さんま)
【植物性食品(非ヘム鉄)】
- 大豆製品(納豆、豆腐、厚揚げ、きなこ)
- 緑黄色野菜(小松菜、ほうれん草、春菊)
- 海藻(ひじき、わかめ、青のり)
- 種実類(ごま、アーモンド、カシューナッツ)
- ドライフルーツ(プルーン、レーズン)
- 貝類(あさり、しじみ、はまぐり)※一部ヘム鉄も含む
- 卵類(卵黄)
ここで重要なのが、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」で吸収率が大きく違うということです。レバーや赤身肉に含まれるヘム鉄は、体への吸収率が高く、効率よく鉄分を摂れます。一方で、小松菜やひじきなどに含まれる非ヘム鉄は、吸収率がぐっと低くなります。なお、厚生労働省の最新の『日本人の食事摂取基準(2025年版)』でも、非ヘム鉄は「体内の鉄分が不足しているときほど、体への吸収率が高まる」という性質が新しく明記されました。今まさに鉄分が足りていないお子さまの体ほど、補ってあげた鉄分を効率よく吸収しようと働いてくれるのです。
非ヘム鉄を摂る場合は、ビタミンC(柑橘類・パプリカ・ブロッコリーなど)と一緒に摂ることで、吸収率が高まることが知られています。
5. 「食事だけで足りる?」──現代の子どもの食生活の落とし穴
鉄分は、現代の子どもの食生活で不足しがちな栄養素のひとつ、と言われています。その理由はいくつもあります。
肉魚離れと偏食
お子さまの好みで、肉や魚をあまり食べないというケースは少なくありません。特にレバーや赤身魚は、子どもに敬遠されやすい食品の代表格です。それでいて、これらが「ヘム鉄」を効率よく摂れる代表食品なのです。
お米中心の食生活
日本の伝統的な食事は、お米と野菜・大豆製品が中心です。これ自体は素晴らしいバランスですが、鉄分の摂取という観点では、植物性の非ヘム鉄に偏りやすく、効率的な摂取が難しい構造を持っています。
食事中の「牛乳の飲みすぎ」
「牛乳を飲みすぎると鉄不足になりやすい」という側面があります。主に乳幼児に多い現象ですが、学童期でも、食事中に牛乳を飲むとカルシウムが鉄分の吸収を妨げてしまいます。また、お腹が満たされることで、食べられる量が減ってしまい、結果的に食品から摂取できる鉄分が減ってしまうのも一因です。
思春期女子の特殊事情
月経が始まると、女子は毎月かなりの量の鉄分を失います。それに加えて、思春期はダイエット意識が芽生え、食事量や食事内容が偏りやすい時期でもあります。この組み合わせが、思春期女子の鉄分不足を加速させているのが現状です。
|つまる、「ちゃんと食べさせているはず」という保護者の感覚と、子どもの体に実際に蓄積されている鉄分の量との間には、想像以上に大きなギャップがあることが多いのです。
▼ 宮﨑先生からのメッセージ ▼
鉄分は、ママ友から「うちの娘、生理が始まってから疲れやすい気がする」「息子の集中力が続かないんだけど、何か関係あるかな」と相談されることが、本当にとても多い栄養素です。私自身、上の子が思春期に入った頃に同じことを心配して、栄養面から見直したことがありました。
はっきりとした貧血になる前の段階を「潜在性鉄欠乏」と呼びますが、これは通常の血液検査では見つかりにくく、本人も保護者も気づかないまま、お子さまの集中力や情緒に静かに影響を及ぼしていることが少なくありません。
「うちの子、なんとなく元気がない」「最近イライラしやすい」「集中が続かない」──こうした漠然とした違和感を感じたとき、それを「成長期だから」「思春期だから」と片付けず、「鉄分、足りているかな?」と一度立ち止まって考えてみてもらえたら、と思います。鉄分不足が情緒の安定に与える影響は、想像以上に大きいと感じています。
特に思春期女子のお子さまをお持ちの方は、月経が始まったタイミングを、お子さまの栄養と本気で向き合う機会にしてみてください。私もその時期、ずいぶんと栄養バランスを意識するようになりました。
▼ さらに深掘り!鉄分の「よくある質問」 ▼
Q. 鉄欠乏性貧血かどうか、どうやって調べる?
A. 病院の血液検査で、「ヘモグロビン値」や「血清フェリチン値」などを確認することで判定できます。特に、まだ貧血にはなっていない隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)を見つけるには、この「フェリチン値(体に貯えられている鉄分の量)」の測定がとても重要んです。お子さまの気になる症状が続く場合は、無理せず小児科の先生にご相談いただくことをおすすめします。
Q. 鉄分の吸収を助ける食べ合わせは?
A. ビタミンC(柑橘類、いちご、ピーマン、ブロッコリーなど)と一緒に摂るのがおすすめです!特に、ほうれん草や大豆などの植物性食品に含まれる鉄分(非ヘム鉄)は、ビタミンCと合わせることで吸収率がグンと上がります。逆に、緑茶や紅茶に含まれる「タンニン」は鉄分の吸収を妨げてしまうので、お食事中や食後すぐは、これらのお茶は避けてお水や麦茶にしていただくと安心ですよ。
【参考文献・出典】
・厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2020年版・2025年版)』
・文部科学省『日本食品標準成分表(八訂)』
次回のテーマ
「うちの子、味の好き嫌いが激しくて」。そんなお悩みの裏に、ある栄養素の不足が隠れていることがあります。
次回は、味覚・免疫・成長ホルモンと、子どもの体のさまざまな働きを支える栄養素、「亜鉛」のお話をお届けします。
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